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資源生物創成学研究室

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研究の全体像

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ファイトプラズマとは?
ファイトプラズマは、1967年にマイコプラズマ様微生物(mycoplasma-like organism, MLO)として世界に先駆けてわが国で発見された植物病原微生物で(土居ら,
1967)、当初ウイルス病とされ、世界中で600種類以上の病気を引き起こし、昆虫により伝搬されるため、農業上重要病害であるクワ萎縮病やイネ黄萎病など、各種農作物に黄化・萎縮・叢生・てんぐ巣・フィロディーなど特徴的な症状を引き起こし、大きな被害をもたらす病害として知られていた。しかしその病原は永年にわたり原因不明であったため、この新たな病原体の一群の発見は、生物界の新ジャンルを開く微生物として世界中の注目を集めた。それから4半世紀を経て、農学上のみならず生物学上も重要な微生物でありながら、これまで培養に成功していないことから、遺伝子レベルでの研究は遅れていた。しかし最近では、アジサイやポインセチアなど、これまで品種と思われ珍重されていたものが実はファイトプラズマによるものであることが分かったほか、我が国を最重要輸出国とする中国のキリ材生産において、本微生物により大量のキリが枯死するという大きな被害を生じており
(Sawayanagi et al, 1999; Lee et al., 1997)、我が国の同種農業生産への影響も危惧され、本微生物の早急な究明と対策が切望されている。 |
ファイトプラズマの分類体系の確立
ファイトプラズマは、それぞれの病原同士の比較解析が困難なことから、これまで、植物から一つファイトプラズマ病が見つかるたびに別々の病名と病原名がそれぞれつけられていたが、分子生物学的な手法による系統分類法が考案され、ファイトプラズマの分子レベルでの研究が始まった(Namba
et al., 1993)。世界中に発生するファイトプラズマの16S rRNA遺伝子を解析して遺伝学的位置付けを行った結果、意外なことに、クロストリジア(clostridia)を含む厚い細胞壁を持ったA+Tリッチなグラム陽性細菌にむしろ近縁ではあるが、Mollicutes
(モリキューテス)綱に属する細胞壁を欠いた、多様性のある微生物群であることが明らかになった。しかし従来MLOと称されてきた本微生物が動物マイコプラズマとは系統学的に大きく異なることが明らかになった。そこで、MLOというそれまでの名称をファイトプラズマに変え、属名をPhytoplasmaとすること、系統解析により分類されたサブグループについて、ラテン二名法により暫定種を命名すること等が提案され、承認された(Namba
et al., 1993)。その後、暫定種の登録が進められ(Sawayanagi et al, 1999;
Jung et al., 2002)、最新の分類体系が確立された(Jung et al., 2002)。
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ファイトプラズマのゲノムは枯草菌に似ている
ファイトプラズマ・サブグループ16S-group IよりOY phytoplasma (OY-W)
をモデル種に選び、無病徴変異株 (OY-M)や昆虫伝搬能喪失変異株 (OY-NIM) など種々の変異株が作出された(Oshima
et al., 2001; 塩見ら,1998)。これにより、ファイトプラズマの病原性や昆虫伝搬能に関する遺伝子の解析が可能となった。
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一般に、ファイトプラズマのゲノムサイズは大腸菌に比べれば4分の1以下で、近縁なアコレプラズマやアナエロプラズマよりもさらに小さいが、約450-1200
kbと幅があり、ゲノムサイズにおいても多様性に富んでいる。このことは、これらの細菌群では、ゲノムの縮小が繰り返し起こったことを示唆している。OY-Mではゲノムに約130kbpの欠失が認められる。
ファイトプラズマゲノムのORF構成や、各種の重要タンパク質をコードする遺伝子の配列解析など、構造上の特徴を調べると、例えば、大腸菌のstrオペロンに該当する領域は、マイコプラズマよりもむしろ枯草菌と最も構成が似ている。S10-spcオペロンは高度に保存されているが、他のMollicutes綱細菌ではrpl30が欠失しており、この点においてもマイコプラズマよりもむしろ枯草菌に似ている(Miyata
et al., 2002)。
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タンパク質発現様式はマイコプラズマと異なる
当初ファイトプラズマは同じMollicutes綱細菌の動物マイコプラズマ同様一般の細菌や真核生物では終止コドンのUGAがトリプトファンとして翻訳されているものと考えられていた。従って、その発現系には特殊な大腸菌や動物マイコプラズマを用いるしか方法がないものと考えられていた。しかし、ファイトプラズマの各遺伝子にコードされる各種タンパク質のアミノ酸配列と使用されるコドンとの比較を行った結果、トリプトファンとしてUGGコドンのみが使われており、終止コドンにUGAコドンが使用されているケースは見いだされなかった。すなわち、従来の予想に反し、ファイトプラズマでは真核細胞と同様なコドンシステムを持っていることになり、ファイトプラズマの特異タンパク質の大腸菌等における大量発現が可能となった(Kakizawa
et al., 2001)。
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ファイトプラズマの感染組織における動態
ファイトプラズマのタンパク質を大腸菌を用いて大量発現することが可能となったため、種々のタンパク質を大量発現させ、それぞれの特異抗体を作製することにより、それらのタンパク質の発現およびファイトプラズマの動態を調べることができるようになった(Kakizawa
et al., 2001)。その結果、OY-Wでは、篩部組織の異常増生とともにファイトプラズマが多量に増殖しているのに対して、OY-Mでは、篩部組織の限られた領域にその発現が認められた。またOY-NIMでは、より限られた領域でのみ発現が認められた(Oshima
et al., 2001)。また、発病組織の頂端部では、ファイトプラズマが存在しない。これらの抗体は、ファイトプラズマの高感度検出法に利用できる。

P, phloem; X, xylem
Bars = 0.1mm.
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Bars = 0.5mm
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A,B,E,F: カロースの沈着(アニリンブルー染色)
カロースは黄色がかった緑色の蛍光として観察される。木部の細胞壁では青色の自家蛍光が観察される。
C,D,G,H: OY-Wの抗SecA抗体を用いたファイトプラズマの局在(アルカリフォスファターゼによる発色)
A,C: OY-W感染植物 B,D: 健全植物 E,G: OY-M感染植物 F,H:
OY-NIM感染植物
矢印: ファイトプラズマの感染により蓄積したカロース。この部分ではファイトプラズマは検出されなかった。
Bars = 100 μm
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ファイトプラズマの染色体外DNA
ファイトプラズマでは、これまで染色体外DNAの存在は示唆されていたが、それらの網羅的解析は行われていなかった。本研究ではファイトプラズマの野性株および各変異株より環状染色体外DNA群を単離し、構造解析を行った。その結果、ファイトプラズマにはその複製酵素のタイプから、2種類の環状染色体外DNAが存在することが分かった。1つは、「ウイルス型染色体外DNA」で、植物ウイルスの一種、一本鎖DNAをゲノムとするgeminivirusの複製酵素
Repタンパク質と相同性の高い複製酵素をコードする染色体外DNA (EcOY) (Nishigawa et al., 2001;
Nishigawa et al., 2002 )、もうひとつは、「ウイルスとプラスミドの両方の性質を持ったレプリコン」で、複製酵素のN-末端側がpLS1
family の細菌プラスミドの複製開始タンパクと相同性が高いにもかかわらず、C-末端側が脊椎動物のssDNA(circoviruses)などの真核生物のウイルスの複製酵素のヘリカーゼドメインに相同性の高い領域をキメラ状に持った複製酵素をコードするプラスミド(pOY)である(Oshima
et al., 2001)。このようなプラスミドはこれまで例がない。いずれも、ローリングサークルタイプの複製 (RCR) を行うことも明らかになった。
そしてOY-Wには合計2種類の染色体外DNA:EcOYW1(7005bp)及びEcOYW2(5560bp)と1種類のプラスミド:pOYW
(3933 bp)が、OY-Mには染色体外DNA:EcOYM (5025bp)とプラスミド:pOYM (3932 bp)がそれぞれ一つずつ存在し、OY-NIMにおいても同様であることが明らかになった。また、pOYWとpOYMには5つのORFが認められるが、pOYNIMではそのうち2つ欠失してORFは3つのみであった(Nishigawa
et al., 2002)。
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EcOY染色体外DNA群とその可塑性
EcOYW1のORF1およびEcOYW2とEcOYMのORF5にはRepがコードされている。また、EcOYW2、EcOYM、pOYWとpOYMのORF4には
single-stranded DNA binding (SSB) proteinがコードされている。一方、EcOYW2およびEcOYMは約半分がEcOYW1、残りの大部分はpOYWとのキメラDNAで、組換えによる再編成
(DNA rearrangement) により生じたものと考えられる(Nishigawa et al., 2002)。このように染色体外DNAが微生物細胞内で頻繁に再編成を行っているという例はこれまでに知られていない。ファイトプラズマの染色体外DNAのダイナミックな再編成とそれにともなう病原性や昆虫伝搬性の急速な変異との関連が示唆される。また、EcOYW1には、興味深いことに、ウイルス様複製因子(Rep)とともに、細菌のプラスミドにコードされる複製制御因子
(COP)様の遺伝子がコードされていた(Nishigawa et al., 2001)。
OY-MにはEcOYW1に相当する染色体外DNAが存在しないことや、EcOYMにはEcOYW2では見られるORFが2つ欠損していることなどから、これらの遺伝子と病原性との関係に興味が持たれる。
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プラスミドの複製遺伝子のユニークな構造と遺伝子発現
pLS1ファミリーを含むバクテリアのプラスミドは複製の際に宿主のDNAヘリカーゼを用いることが知られており、複製開始タンパク質にこのようなヘリカーゼドメインを有するものはこれまで見つかっていない。従ってpOYWのORF1はプラスミドの複製開始タンパク質とウイルスの複製タンパク質が融合した新しいタイプの複製タンパク質をコードしていると考えられる。

本プラスミド群は動物マイコプラズマ等で認められるものと非常に近縁な、1本鎖複製型DNAプラスミドである。このプラスミドには、最大5つのORFが見いだされ、複製酵素をコードした
Rep geneとやはり複製に関与するssDNA結合タンパク質 (SSB; p103) をコードした領域などが認められた。RCR型プラスミドは複製機構が比較的単純で、一般に宿主の複製機構を利用するため、これまでSSBを持つ例は知られておらず、pOYWがSSBをコードしていることは興味深い。SSBを持つプラスミドには、接合によりプラスミドDNAを他のバクテリアに伝達するタイプのものが知られており、宿主のヌクレアーゼから1本鎖DNAを保護する役割を果たしていると考えられている。植物へT-DNAを導入することで知られる
Agrobacterium のプラスミドも SSB (VirE) を持っている。接合性プラスミドの伝達機構はローリングサークル型プラスミドの複製機構と基本的に同様だという報告もあり、pOYWが接合性プラスミドかどうかは興味深い。SSBに関してはOY-W以外のファイトプラズマからも見出されており、このプラスミドの伝達に重要な役割を担っている可能性もある。
本プラスミドは、複製装置を見る限り、ウイルスとプラスミドの両方の分子化石を痕跡として持っており、プラスミドとウイルスの中間の性格を持った、ウイルスに進化する手前のレプリコンの子孫である可能性もある。あるいは、宿主細胞にファイトプラズマとCircovirus属の祖先のウイルスが重複感染し、ファイトプラズマのプラスミドがウイルスのヘリカーゼを組換えにより獲得した可能性もある。もしそうだとすれば、ウイルスとプラスミドの組換えの初めての例となる(Oshima
et al., 2001)。
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ファイトプラズマ研究のこれから
ファイトプラズマは世界に先駆け我が国で発見された微生物で、内外を問わず農業生産上きわめて甚大な被害をもたらす、濾過性で純寄生性の植物病原細胞性微生物である。これらの点で、ファイトプラズマは一般の細菌と異なる。従って、その研究方法もこれまで困難を極め、培養に成功していないことから、これまで分子生物学的な研究はもちろんのこと、体系的分類も全く行われていなかった。
ファイトプラズマは、植物と昆虫の両細胞内で増殖可能で、昆虫では特に寿命を縮めるわけでもなく、活動量や個体重等にも何ら影響はない。しかし植物では致命的な病原性を持つ。そしてファイトプラズマのゲノムは非常にコンパクトである。しかも、ファイトプラズマは多くの動物マイコプラズマとは違って細胞内に生息する。昆虫細胞では、植物から獲得吸汁後細胞内へ侵入し、体内を全身移行したのち、唾腺細胞に感染、細胞外に移行して口針を経由し植物篩部細胞内に再び感染する。植物体内では、プラズモデスマータや篩管通導組織を通じて全身の篩部組織内を移行する。ウイルスと異なり、ファイトプラズマでは、その細胞内に増殖機構のほぼ全てが揃っていると考えられる。その点では糸状菌や細菌に近い。しかしその移行において、植物におけるプラズモデスマータを介した細胞間移行や維管束組織を介した組織間移行の他に、昆虫における細胞外(昆虫の口針・消化器官)から細胞内への移行と、細胞内から外部(昆虫の口針・消化器官)への移行も含まれる。これらの特徴は、ファイトプラズマが糸状菌・細菌とウイルスとの中間的な存在であることを反映している。
ファイトプラズマに分子レベルのメスを入れることにより、ファイトプラズマについて、これまで知られていなかった種々の知見が得られつつある。プラスミドの複製酵素がウイルス及びプラスミドのそれとキメラ構造を持っているなど新しいタイプのプラスミドの発見は、動植物細胞内に生息するファイトプラズマの生物進化に関わる重要性を示すものである。今後、これらの知見をもとに防除法の確立に向けた研究の進展が期待される。
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