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野蚕の性決定機構の解明

李 允求 (M1)

キイロショウジョウバエの性決定機構が詳細に明らかになってきたこととは対照的に, 鱗翅目昆虫の性決定機構は殆ど明らかになっていない. モデル生物であるカイコ Bombyx moriにおいても, 性決定機構に関する研究は遅々として進まなかった.

その理由は, 主としてカイコのW染色体の構造にある: カイコの性染色体構成は, 雄ZZ/雌ZWの雌ヘテロ型である. カイコにおいては, Z染色体の本数に関わらず, W染色体が1本でもあればその個体は雌になる. そのため, W染色体上には雌を強力に決定する因子Femが座上していると考えられてきた. しかしながら, W染色体はトランスポゾンに占拠された染色体であり(Abe et al, 1998; Abe et al, 2002; Sahara et al, 2003; Abe et al, 2005a; Abe et al, 2005b; Abe et al, 2008), これらのトランスポゾンは「入れ子」構造を呈しているため, Fem同定のためのドラフト配列を作成できない. さらに, カイコ雌では組換えが起こらないため遺伝学的絞り込みが不可能であることから, 近年に至るまでW染色体上の雌性決定遺伝子は同定することはできなかった.
しかしながら, 近年になって, RNA-seqなどのシーケンシング技術が発達し, 遺伝子発現を網羅的に解析することが可能になった. この技術を適用し私たちの研究室では, カイコ雌初期胚において雌特異的に発現するPIWI-interacting RNA (piRNA)が, 雌性決定因子Femの実体であることを発見した.

しかしながら, 鱗翅目には, エリサンSamia cynthia riciniやクスサンCaligula japonicaなどのように, W染色体を持たず, 雄ZZ/雌Z0型の性染色体構成を有する種が存在する. これらの種では, 未受精卵が孵化するという報告は存しないため, 膜翅目に見られるような, 半数倍数性の性決定機構とは異なるメカニズムで性を決定していると考えられる. また, これらの種においては, 原理的に雌性特異的なpiRNAの産生は存在しないと考えられるので, piRNA以外の因子が性決定の最上流因子である可能性が高い.

そこで, 私は多化性でかつ, 飼育・継代が非常に容易なエリサンをモデルに設定し, カイコで得られた知見を基に, 雄ZZ/雌Z0型の性染色体構成を有する種の性決定機構の解明を目的に研究を進めている. 将来的には, 雄ZZ/雌Z0型の性染色体構成を有する種が, 如何にしてW染色体を獲得し, そしてpiRNAを性決定に利用するようになったのか, という「性の進化」についても明らかにしていきたい.

Sacr.png
エリサン 雄個体