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カイコの油蚕変異体原因遺伝子の遺伝学的研究について

張 昊堃 (D1)

 正常なカイコの皮膚は白色不透明です。これは、カイコの真皮細胞の細胞質で尿酸顆粒が形成され結晶化した尿酸塩が、それが可視光を乱反射させるからです。しかし、真皮細胞に尿酸顆粒が正常に形成されないために皮膚が透けてみえる突然変異体(油蚕変異体)が多数見つかっています(図1)。

 カイコ体内の尿酸代謝異常は、油蚕表現型の主な原因です。主に脂肪体で合成される尿酸は、正常個体のカイコ幼虫期に血リンパを介して外皮組織の上皮細胞に取り込まれ、尿酸顆粒として蓄積します(図1)。

 油蚕変異体の原因としては、(a)尿酸合成の欠損、(b)尿酸輸送の欠陥、(c)尿酸顆粒の欠失、の三点が指摘されています。油蚕の分子遺伝学により、最近、細胞質の膜輸送が尿酸顆粒の形成に大きく関与することが分かってきました。

 私は、二つの油蚕変異体について、BC(Backcross)個体を用いて、ポジショナルクローニング(positional cloning)を行い、染色体上の油蚕原因遺伝子の候補領域を絞り込んでいます。ポジショナルクローニングによる絞り込みの結果、ある遺伝子に変異を見出すことができました。現在、分子生物学的分析を行い、油蚕表現型が生じる原因のメカニズムを解明しようとしています。

 近年、尿酸顆粒を形成できない油蚕変異体の原因遺伝子として、リソソーム関連細胞小器官(LROs, Lysosome-Related Organelles)の形成過程を担うタンパク質のサブユニットが見つかってきました。ちなみに、同研究室の中島さんは、逆遺伝学的なアプローチを用いて、他のLROsのホモログをコードするカイコ遺伝子のノックダウンを行い、油紙のような変異体表現型を得ることに成功しています。このように、順遺伝学的と逆遺伝学的アプローチで一致する結果が得られたことから、LROs関連遺伝子の変異は油蚕表現型に強く関連しているといえます。

 様々な程度で透明になる油蚕変異体は、表現型の検出が簡単なため、尿酸代謝異常のモデル生物として優れています。そして、尿酸代謝及び膜輸送の分子メカニズムに新たな理解を加えるものだと考えられています。

 今後は、LROs形成遺伝子の異常と油蚕変異体の関係をさらに追究するとともに、いろいろな油蚕変異体の原因遺伝子に対する順遺伝学的研究を続けていく予定です。

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図1、カイコの油蚕変異体と正常型