Research02 - 昆虫遺伝研究室 - 東京大学 - 公式ウェブサイト

HOME > ja > Research02

ウイルスはいかにして宿主の行動を操作するのか

國生 龍平 (D3) (日本学術振興会 特別研究員(DC1))

 昆虫病理学の分野では、「Wipfelkrankheit (梢頭病)」と呼ばれる病気が100年以上前から知られています。この病気は、チョウ目昆虫の幼虫が昆虫ウイルスの一種であるバキュロウイルスに感染することで発病します。

 バキュロウイルスは感染末期に宿主の行動を活発にし、寄主植物の上方に移動させ、その場で致死させます。その結果、鳥などの補食や風雨による死体からのウイルスの飛散が促進され、次代が広範囲に伝播します。このことから、梢頭病の正体はウイルスによる利己的な行動操作であると考えられていますが、行動操作の詳細なメカニズムはほとんど明らかになっていませんでした。

 私たちの研究室では、カイコとそのバキュロウイルスを用いて、「ウイルスはいかにして宿主の行動を操作するのか」という謎を解明すべく研究を行っています。

 私たちはこれまでに、カリフォルニア大学デービス校、ジョージ・カミタ博士との共同研究により、ウイルスの脱リン酸化酵素遺伝子(ptp)が行動制御に関わることを報告しています(文献1)。また、最近の研究結果からは、このPTPタンパク質は酵素としてではなくウイルスの病原性を高めるために必要なウイルス粒子の構造タンパク質であり、宿主脳への感染に必須であるという驚くべき結果を得ています(文献2)。一方、遺伝子欠損ウイルスのスクリーニングから、新たな行動制御遺伝子ローカスとしてBm8(文献3)などを同定しています。

 現在、トランスクリプトーム解析、および電気生理実験技術を組み合わせて、ウイルス・宿主両面からウイルスの行動制御に迫る研究を実施しています。

virus1.png

参考文献:1. Kamita SG et al., A baculovirus-encoded protein tyrosine phosphatase gene induces enhanced locomotory activity in a lepidopteran host. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2005, 102, 2584-2589.2. Katsuma S et al., The baculovirus uses a captured host phosphatase to induce enhanced locomotory activity in host caterpillars. PLoS Pathogens, 2012, 8, e1002644.3. Katsuma S et al., Baculovirus-encoded protein BV/ODV-E26 determines tissue tropism and virulence in lepidopteran insects. Journal of Virology, 2012, 86, 2545-2555.

プレスリリース:「病原体はいかにして宿主の行動を操るのか:昆虫のウイルスを用いたアプローチ」
大学院農学生命科学研究科での報道
東京大学本部での報道
日本応用動物昆虫学会ポータルサイト「むしむしコラム・おーどーこん」での解説記事